2023.11.13

  • 取り組み

患者さん同士が交流できる空間 翼の舎病院ADL室 <後編>

ADL(日常生活動作)とは食事、整容、排せつ、入浴、更衣、移動など生活を営む上で欠かせない動作のことを示します。
回復期リハビリテーション病院内には、このADL向上を目指すとともに在宅復帰・社会復帰後の生活を見据えたリハビリを行うADL室を設置している病院が数多くあります。
今回は当法人リハビリテーション翼の舎病院のADL室について作業療法士の岡さんに話をお聞きし、前後編に分けて詳しくお伝えしていきます。
前編ではADL室の運用と、機能回復に向けたリハビリ機器についてお伝えしました。

前編はこちら

後編では在宅復帰や復職を目指す取り組みについて、岡さんに加え言語聴覚士の平野さんにも話しをお聞きし、お伝えします。

リハビリテーション翼の舎病院
脳血管疾患や大腿骨骨折等の患者さんに365日一日最大3時間のリハビリテーションを提供する。同一建物内に介護老人保健施設とデイケアセンターが併設された医療と介護の複合施設

作業療法士 岡さん
言語聴覚士 平野さん

復職を目指すためのリハビリ ワークサンプル幕張版

<翼の舎病院では復職や在宅復帰を目指す患者さんへどのようなリハビリを行っているのでしょうか>

(岡) まず、復職先で必要とされるパソコン・事務作業(書類チェックや日報管理)・ピッキング作業・組み立て作業を行えるワークサンプル幕張版を使って、「複数の作業を同時に効率的に時間内で終わらせることができるか」の評価をすることができます。
例えばピッキングをする仕事に戻られるのであれば、リスト内に書かれている物品をラックの中から探してもらいます。

簡単な課題であれば、書かれている物を探してくるだけでいいのですが、難易度が上がると「AとBとCを合計●g」のように計算する必要が出てきます。

その他にも工場のライン作業に戻られる患者さんであれば、電源タップの組み立て作業、事務作業に戻られる方であれば、パソコンのタイピング練習をしてもらっています。

家族が好きだったあの料理をもう一度作りたい

(岡) 次に日常生活への取り組みとして、実際の調理練習を行えるキッチンがあります。ここでは準備から片付けまで一連の工程を練習・評価しています。

何を作ってもらうのかは、ご家庭ごとでよく作る料理も分量も違うので、患者さんに合わせて料理を決めています。例えば餃子やポテトサラダ、野菜炒め、オムライス…珍しい患者さんですと柚子ジャムつくりや蕎麦打ちをやったことがあります。ご家族が好きで食べてもらいたい料理を大切に取り組みたいと考えています。

蕎麦打ちの様子

<上肢機能ではなく、遂行機能に障害のある高次脳障害の患者さんに対しては、言語聴覚士の方が正しく評価できることもあると言語聴覚士の平野さんは言います>

(平野) 作業療法士はその患者さんが何を作りたいかを意識した料理を選びますが、言語聴覚士は「何を作れば評価したい脳の機能を評価することができるか」を考え料理を決めています。料理を作るだけではなく、効率よく、同時に様々な作業を行えるかを評価しなければいけません。例えばカレーにもう1品追加したり、余った具材を使って他に料理を作ることができるかを考えてもらったりもしています。
実際にそれを言語聴覚士がやる場合もありますし、作業療法士と共有して、お願いすることもあります。

運転能力を評価するドライブシミュレータ

<栃木県は車社会のため、在宅に帰られた後に車を運転したいという高次脳障害の患者さんがいらっしゃいます。そういった患者さんには入院中に、机上とドライブシミュレータの評価を行い、医師が診断書を書いた上で、退院後に最寄りの警察または免許センターで確認をしていただき運転の再開ができるのかという判断をしてもらいます。>

一番左のペダルは右麻痺の患者さん用の左足アクセルペダル

(平野) 運転希望のある方に対して、アクセルブレーキ、ハンドルの反応の遅れがないか。右左折時の巻き込み、子どもの飛び出しなどの危険予測ができているか。長時間の運転に耐えられるかなどの評価を行います。運転すると最後に測定結果が出ますので、今のご自身の状況の認識を高めてもらうことができます。
身辺動作(食事・着替え・整容・トイレ・入浴など)が自立していることが条件なのですが、「ドライブシミュレータをやりたいから入院したい」という声もあります。

運転能力測定結果
頚髄損傷者の運転補助装置
右手でハンドルを握り、左手でアクセルブレーキの操作を行う

患者さんご家族の思いを実現するために

<このように機能向上や退院後を踏まえたリハビリを行うだけでなく、患者さん同士の交流スペースとして翼の舎病院ではADL室を利用しています。そして今後はADL室ともうひとつある自主リハ室を使い分けていきたいと岡さんは言います。>

(岡) ADL室は作業療法士中心にスタッフが準備を行い、患者さんが自主練習や作業をする場所。もうひとつ自主リハ室があるのですが、そちらは準備にスタッフが必要なく、ご自身でどんどんリハビリができる患者さんに利用してもらいたいと考えています。
例えば復職後に立ち仕事をする人であれば、リハビリの時間以外はずっと立ちながら作業をしてもらう。そうやってADL室と自主練習室は役割を分けていきたいと考えています。
 私たち作業療法士は、患者さんやご家族の希望や思いを受け止めて、それを実現するためのお手伝いをさせていただいています。しかし、全てをリハビリスタッフだけで実現することはできなくて、他職種の力もそうですし、なにより患者さん自身の頑張りが必要です。
ですので、患者さんが主体的に動き、やる気になって、自信をつけてもらうにはどうしたらいいのか。リハビリするだけではなく様々な役割を求められていると感じています。
 患者さんの叶えたい目標を実現するために、努力できる場所を整備して、このADL室を最大限に活用していけるよう努めていきたいです。

取材:R5.10

この記事を書いたのは…

広報 スズキ
2019年より現職。
東京から栃木に移住。写真や動画を撮ったり、紙物を作ったり、YouTubeの編集したり、お米を作ったり。最近はちょいちょいYouTubeに出ることも。