2023.11.07

  • 取り組み

患者さん同士が交流できる空間 翼の舎病院ADL室 <前編>

 ADL(日常生活動作)とは食事、整容、トイレ、入浴、更衣、移動など生活する上で欠かせない動作のことを言います。
回復期リハビリテーション病院内には、このADL向上を目指すとともに在宅復帰・社会復帰後の生活を見据えたリハビリを行うADL室を設置している病院が数多くあります。
 今回は当法人リハビリテーション翼の舎病院のADL室について作業療法士の岡さんに話をお聞きし、前後編に分けて詳しくお伝えしていきます。

リハビリテーション翼の舎病院
脳血管疾患や大腿骨骨折等の患者さんに365日一日最大3時間のリハビリテーションを提供する。同一建物内に介護老人保健施設とデイケアセンターが併設された医療と介護の複合施設

作業療法士 岡さん

患者さん同士の交流の場になればいいなと

<当法人ではリハビリテーション花の舎病院(野木町)とリハビリテーション翼の舎病院(小山市)にそれぞれADL室を設置しています。2020年12月開院の翼の舎病院は花の舎病院をモデルに建築されたのですが、設置されているリハビリ機器以外にもその使い方に違いがあると岡さんは言います。>

翼の舎病院ADL室
花の舎病院ADL室

(岡) 一般的なADL室は、和室での床上動作やトイレの動作、料理の動作などを評価する場所です。翼の舎病院では、その前段階として患者さんが自然とADL室に集まって、会話を楽しみながらリハビリをすることで、患者さん同士の交流が生まれる空間になっていければといいねと開院前から話し合っていたんです。
 リハビリ病院に入院すると朝から晩までリハビリ中心の生活になります。中には思うように回復しない患者さんや、コロナ渦で面会制限もあったせいで、孤独感を感じてしまう患者さんもいました。患者さんの気持ちは患者さん同士が一番良く分かっていますから。お互い励まし支え合うことも大切だと考えています。

作業スペースで自主練習を行う様子

 ですので当院のADL室の中央には作業スペースを設けて、そこで患者さん同士が向かい合って自主練習をするようにしました。するとADL室で一緒に自主練習をしていた患者さんが病棟やリハビリスペースで会った時にあいさつや会話をしていることが見られるようになったんです。開院して3年が経ちますが、繋がりをつくる場所として良い雰囲気になってきたなと感じます。

腕の拘縮予防と運動範囲の拡大を目指す ReoGo-J

<翼の舎病院には栃木県内に2台しかない上肢用ロボット型運動訓練装置ReoGo-J(レオゴー 以下ReoGo)を設置しています。これは脳卒中や頸髄損傷によって上肢に障害がある患者さんが使うリハビリ機器です。>

(岡) ReoGoは肩関節と肘関節の拘縮予防や運動範囲の拡大を促す機器です。担当の作業療法士が事前に患者さんの状態に合わせパソコンでプログラムを立てます。
 対象の手をアームに置いて、画面に表示されている緑の点(現在点)を赤い点(到着点)に向かって手を動かしていきます。リーチ(軌道)は直進するだけの前方リーチの他に、回旋リーチ・放射リーチなどを選ぶことができます。

拘縮…病気やケガによって関節の動きが制限された状態

アームに手を置いた写真。左右どちらの手でも使うことができる。
ReoGoの画面。前方リーチのリハビリの様子
リーチは17種類から選ぶことができる。※帝人ファーマ株式会社ホームページより

<どんな状態の患者さんでも使用できる所が特徴と岡さんは言います。>

(岡) 患者さんの状態に合わせた回数や稼働幅、負荷に設定することができます。手が全く動かない重度の患者さんであれば、機械に任せて手を動かしてもらうことで拘縮予防につなげます。手がある程度動かすことのできる患者さんであれば、自分で軸を制御してもらうことで可動範囲のさらなる拡大を狙います。5段階の運動方法の中から患者さんに合わせた難易度に設定できることが特徴です。
 当院ではリハビリの時間(1日最大3時間)とは別に自主練習として1日40分弱ReoGoを使っていただいています。まず実施前に上肢機能の評価を行い、1クール(3週間)後に再評価を行ってどれくらい改善したかデータを取っています。

今まで得られたデータを令和4年度の栃木県作業療法学会にて発表を行いました。

電気刺激で筋萎縮改善を促す Wilmo

<手指の運動に障害がある患者さんに対してはWilmoという電気刺激を加えて筋萎縮の改善を促す機械を使っています。>

Wilmo

(岡) 腕につけて、指を伸縮させる筋肉に電気刺激を加えます。指を動かすときに発せられる信号をWilmoが感知して、その信号に合わせた電気刺激を与えることで、神経促通刺激を与え、筋萎縮改善を促します。
 筋肉がたくさん動いている時はたくさんの電気を流し、少し動いている時は少し電気を流すというように筋肉の強弱に同期して、電気を流しています。アシストを増やしたい時は電気の量を増やすこともできます。

つけていても重量感がないので、装着しながら手を動かす自主練習を行えることが特徴です。ReoGoと同じく毎日の自主練習の時間に活用しています。
筋肉の働きを感知する機器ですので、原則指を動かすことのできる患者さんが対象です。指を動かせない患者さんへはIVES(アイビス)という、単純刺激を設定された時間流す機器を使っています。

本記事は後編へ続きます。

取材:R5.10

後編はこちら

この記事を書いたのは…

広報 スズキ
2019年より現職。
東京から栃木に移住。写真や動画を撮ったり、紙物を作ったり、YouTubeの編集したり、お米を作ったり。
最近はちょいちょいYouTubeに出ることも。