2023.11.27

  • 取り組み

その人らしい社会参加の実現を目指して クジラゆかい

老後の暮らしになってくると、家庭内外での活動の中で「楽しみをもつこと、生きがいをもつこと」が大切であると考えられています。

このような家庭内や仕事先、地域などで何らかの役割を持って活動することを「社会参加」と呼び、当法人のデイケア施設ではご利用者の社会参加に向けた支援を行っています。 今回は茨城県古河市のデイ・リハビリテーションセンタークジラゆかいの取り組みについて、理学療法士の和田さんと、クジラゆかいご利用中の白井さんから話をお聞きしお伝えします。

デイ・リハビリテーションセンタークジラゆかい
自宅から通いながら専門職によるリハビリテーションや、個々にあった自主練習指導、パワーリハビリテーション、生活リハビリなどを行い、ご利用者の社会参加や生活行為の維持向上を目指す。

クジラゆかいホームページ
クジラゆかいセンター長、理学療法士 和田さん(中央)


(和田) 人は家事や仕事、趣味などを通して他人と交流しながら生活しています。ですが、例えばある日突然脳卒中で倒れて、身体に障害が残ったとします。そうすると、まずはトイレや食事など日常生活を取り戻すためのリハビリをしていきます。生活に必要なことなので当然です。でもそれがなんとか自立できたとしても、本人の生きがいが取り戻せたかと言うと違うと思うんです。
元々の生活をたどっていくと、ひとりひとり違う活動をされている。中には白井さんのように活動的だった方もいます。


<フラワーアレンジメント教室で講師をされていた白井さんは、今から6年前に病気を患いました。リハビリテーション花の舎病院で集中的なリハビリテーションを行い、退院後の現在はデイ・リハビリテーションセンタークジラゆかいを週3~4回利用されています。>

クジラゆかいに通う白井さん


(白井さん) 高校卒業後、池坊※のいけばなを習い、仕事をしながら依頼があったお店にお花を活けていました。ある時、洋服店のショーウインドウにお花を飾ったのですが、洋風に仕上げないといけないから、いけばなとは違う勉強をしなくてはならないなと思ったんです。そこで宇都宮のフラワーアレンジメントのカルチャースクールに通いました。それからその先生に師事し、東京で先生主催の作品展にも参加しておりました。

※池坊(いけのぼう)…いけばな界最古かつ最大規模の流派



<その後、茨城県でアレンジメント教室をひらくことになり最大で15名ほどの生徒さんを抱えていたと言います。しかし、病気を患ったことでアレンジメント教室は中断せざるをえませんでした。なんとか教室を再開したいけれども身体には不安がある。そんな時、ある人から連絡が入ります。>


(白井さん) アレンジメント教室のアシスタントをしてくださった方から「再開するなら何でもお手伝いさせてもらいます」って連絡があったんです。他にも、花の舎病院に入院している時に生徒さんが「また教室再開してください」ってお見舞いに来てくれたこともあったんです。これは皆さんのためにも再開しないといけないなって思いました。そこでリハビリの和田さんにどうしたら再開できるかな?って相談をしたんです。


(和田) 花の舎病院を退院される時の情報の中に、フラワーアレンジメントの講師をしたいという目標があることを事前に確認していました。白井さんから相談があった時はまだ歩行に不安があったので、目標のために歩行練習をしっかりしていきましょうとお伝えしました。

クジラゆかいでの歩行練習のイメージ


<それからリハビリを続け教室を再開することができました。和田さんは実際のアレンジメント教室の様子を見に行ったそうです。>

白井さんのフラワーアレンジメント教室 撮影:和田さん


(和田) 別の課題やリスクがないかを確認したくて見に行きました。教室の進行や生徒さんとのやりとりを見ていると問題なかったので、これなら続けられそうだなと安心しましたね。アシスタントの方や生徒さんからのサポートもあるようです。


(白井さん) 見に来てくれた時は本当に心強かったです。嬉しかったなぁ。そうやって応援してくれる人がいるから頑張ろうと思えます。本当に感謝しています。


<今では月に1度、教室を開催している白井さん。再開から少しすると、アレンジメント教室でつくったお花をクジラゆかいに持ってきてくださるようになりました。クジラゆかいの入口脇には毎月色とりどりのお花が飾られています。

(白井さん) 1度お花をここに持ってきたらみんな喜んでくれて。皆さんにもっと見てもらいたいなと思ったのがはじまりです。お花は見ているだけで楽しいですし、心がやすらぐでしょう?今ではデイの方だけでなく、入所の方も見にきてくれます。お花と一緒にお花の名前とテーマも分かった方が良いかなと思って紙に書いて添えてあります。

<そうやってお花で人々を笑顔にしてきた白井さんはこれからやってみたいことがあるそうです。>

(白井さん) クジラゆかいの皆さんに、お花を持って帰ってもらえるようなアレンジメント講座をやってみたいなって思っています。クリスマスやバレンタインや父の日など、季節にちなんだお花を使って12カ月シリーズで出来たらなって。それからクジラゆかいを卒業したら、駅や公共の場にお花を活けて、通行人の心のやすらぎになるようなボランティア活動もしていきたいなって思っています。今はそういうことを考えているだけで楽しいの。

 それと旅行も好きで海外旅行にもたくさん行ってきました。車いすでも行けるツアーがあるから、それに参加するためにリハビリがんばらなくちゃね。



(和田) デイケアに通う目的は、「元々おこなっていた生活や活動の場に戻ってもらうこと」です。ですが、いつの間にか「デイケアに通うこと」が目的になってしまいます。それは悪いことではないのですが、戻れるのであれば、病気する前の生活や活動に戻っていただきたい。それを実現するために利用者さんの社会参加や目標に合わせた支援を続けていきたいと思います。

取材:R5.10