2024.07.19

  • 取り組み

小児訪問リハビリテーションへの取り組み 訪問看護ステーションたんぽぽ

 在宅療養生活の支援を行う訪問看護ステーションたんぽぽ(栃木県下都賀郡野木町)では、発達障害や先天性疾患などの障害を抱えるお子さんに対する小児訪問リハビリテーションを行っています。今回は小児訪問リハビリテーション担当の理学療法士 鈴木陽介さんと尾崎正弘さんの訪問に同行しました。

訪問看護ステーションたんぽぽとは

ターミナルケア、神経難病、精神疾患、認知症、先天性疾患、医療依存度の高い方など、小児から高齢者すべてのご利用者へ訪問看護、訪問リハビリを行う大規模ステーション。24時間365日対応し、状態によっては計画的に土日祝日の定期訪問も行う。
訪問エリアは、栃木県の野木町・小山市・栃木市と、茨城県の古河市・五霞町・境町・八千代町、坂東市(一部地域)、結城市(一部地域)。
理学療法士と作業療法士 計7名が在籍し訪問リハビリを行っている。

訪問看護ステーションたんぽぽホームページ
(左から尾崎正弘さん、鈴木陽介さん)

小児訪問リハビリテーションとは

現在、2人が担当する患者さんのうち2~3割程が18歳以下の方。

たんぽぽ事務所のホワイトボードには、その週訪問予定の患者さんの名が並んでいる。



小児訪問リハビリテーションの主な対象疾患は、
・脳性まひ
・先天性筋疾患
・染色体異常症 

などの医療依存度の高いお子さんから

・自閉スペクトラム症 
・運動発達遅滞
・精神運動発達遅滞

などの発達障害に悩むお子さんまで、幅広く対応し訪問を行っています。

 また、生まれつき障がいのある方が、成人された後も引き続き訪問リハビリを利用されている方も多くいらっしゃいます。
その中でもたんぽぽご利用のお子さんは、医療依存度の高い方の割合が比較的多く、おおよそ週に1~2日の訪問で、1日1時間ほどのリハビリを提供しています。

指定難病の先天性ミオパチーの患者さん。週に1度、学校帰宅後に訪問リハビリを利用されている。手話やボードを交えてコミュニケーションを取りながら、拘縮予防と関節可動域を維持するためのリハビリを行っていた。
先天性ミオパチーとは、骨格筋の先天的な構造異常により、新生児期ないし乳児期から筋力、筋緊張低下を示し、また筋症状以外にも呼吸障害、心合併症、関節拘縮、側弯、発育・発達の遅れ等を認める疾患群である。(概要・診断基準等 厚生労働省作成)
同じく指定難病の筋ジストロフィーの患者さん。全身の筋肉が徐々に弱っていく病気だ。気管切開していると肺炎などの呼吸不全を起こしやすくなる。入院してしまうとその期間リハビリが出来なくなり、拘縮も進んでしまうため、念入りに呼吸リハビリテーションを行っていた。


 訪問リハビリの主な内容は、手足の拘縮・変形を予防するための関節可動域訓練と、肺をきれいに保ち、肺炎などの呼吸不全を起こさないことを目的とした呼吸理学療法です。
 また、リハビリ中はご家族も近くにいらっしゃるため、生活環境や介助方法で困っていることがあれば、すぐに相談に応じられる所も訪問リハビリの良いところです。その都度、適切なご提案をさせていただいています。
 その他にも、通われている学校に訪問し、教室や体育館などの環境の確認、学校関係者からの相談にも応じています。

ご自宅の環境確認の様子。訪問の前夜、浴室内で転倒してしまったため、状況の確認を行った。必要であれば福祉用具等の提案も行う。
学校での環境調整の様子。(尾崎さん提供)


 高齢者に比べるとお子さんがリハビリを受けられる場所は多くありません。外来でのリハビリも一定の年齢で打ち切られてしまい、お困りになるご家族も多くいらっしゃいます。そのような方々でも訪問リハビリであれば利用することができるので、力になりたいと鈴木さんは言います。

子どもたちの意識をいかにリハビリに向けるか

指の力をつけるために、鉄砲のおもちゃをつかったリハビリ。
先天性サイトメガロウイルス感染症の患者さん。大好きな音楽を流しながら屋外での歩行練習を行っていた。

 
 おもちゃを積極的に使用しながら、遊びを通してお子さんのリハビリへの意識を高めています。
訪問リハビリはお子さんの好きな物が周りにある環境で行われるため中にはリハビリに集中できない子もいらっしゃいます。そう言ったお子さんをいかにやる気にさせるかが難しいところです。

 こちらの「やりたい」リハビリ内容に、子どもたちが「楽しめる」ことを加えた時に、どんなリハビリができるかを考えることが自分たちの腕の見せどころだと尾崎さんは言います。

尾崎さんの訪問車にはリハビリに使う道具がたくさん積まれている。

必要であればリハビリの道具を手作りする

 先述した気管切開以外にも、在宅生活の多くを仰向けで過ごされると淡が溜まり、肺炎を起こしやすくなり、結果入院を余儀無くされます。ご自身で横向きになることやうつ伏せになることができれば、そのリスクを減らすことができるのですが、それが難しい方におふたりは自作でマットを作り、呼吸リハビリテーションを行っています。

咳をして痰を出すことが難しい染色体異常症の患者さん。マットを使いうつ伏せにしながら呼吸リハビリテーションを行う。
この日作って持ってきたマット。拘縮がありうつ伏せになることが難しいため、少しでも角度をつけられるようにと患者さんに最適な角度で作ってきたという。

他職種、他事業所との連携も重要

 患者さんが在宅で安全に暮らしていくためには、リハビリ内容の工夫や環境調整だけでなく、他職種との連携も重要です。たんぽぽでは、セラピストと看護師、ケアマネジャーが同じフロアにいるため他職種との連携が図りやすく、1人1台の貸与されているモバイル端末で患者さんの情報をリアルタイムで共有しています。



 また、栃木県内の小児リハビリテーションに関わる病院・施設・有識者を交えて、意見交換や学ぶ機会を創出することを目的に月に1度のミーティングに参加しています。ミーティングを通して自己研鑽に励んだり、他事業所との連携を深めていくことで、患者さんにもっと良い関わりができるのではないかと考えています。

訪問スタッフは在宅療養生活を送られているご利用者・ご家族の伴走者である

患者さんと関わる期間が長期になることもある訪問リハビリにおいて、小児訪問リハビリはお子さんの心身の成長だけでなく、進学や就職といったライフステージの変化にも立ち会うことになります。その中で小児訪問リハビリのスタッフは、直接的なリハビリでの関わりだけでなく、日常生活の些細な相談にも応じ、共に歩むまさに「伴走者」なのではないかと、同行の中で感じました。

もちろん成長だけでなく、病の進行によって今まで出来ていたことが出来なくなっていくことに直面する難しさもあります。その中で、小児訪問リハビリを通してどのような関わりができるかを追求しながら、お一人おひとりに必要な支援を行っていきます。

(取材 友志会鈴木 R6.6)