2024.11.11

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ときどき入院、ほぼ在宅で地域を支える 野木病院

 栃木県の南の玄関口、下都賀郡野木町。
人口約2万5千人のうち65歳以上の高齢者の割合が34.3%と全国平均(29.1%)を上回るこの町で、唯一の入院機能を持つ野木病院は全国の病院の中では珍しい「全床が地域包括ケア病棟」の病院です。

野木病院ホームページ

野木病院ホームページ

 超高齢社会を迎えた今日において、病院は「治す」ことだけを目的にするだけでなく、在宅医療や介護サービスなどと連携し「治し、支える」ための医療も求められています。そしてこの「治し、支える」医療を提供し、地域で暮らし続ける皆さんを支えることを目的とした病棟が地域包括ケア病棟です。
地域包括ケア病棟は地域包括ケアシステム※を構築するために欠かすことのできない病棟です。
しかし、世の中で地域包括ケアシステムの推進が叫ばれ始めてかなりの時間が経ちましたが、地域包括ケア病棟の役割や具体的な機能については、まだ充分に認知されていないように思われます。

そこで今回は、住み慣れた地域で最後まで安心した暮らしを支える地域包括ケア病棟の役割や内容について、野木病院 看護師の小島美由紀さんと作業療法士 知久あゆみさんにお話しを伺い、お伝えします。

※地域包括ケアシステムとは:高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を営むことを目的に、行政や病院、介護施設だけでなく、地域が一体となり支援体制を構築する仕組み

(左)野木病院病棟部長代行 小島 美由紀さん (右)作業療法士 知久 あゆみさん

様々な方向から柔軟に受け入れをする病棟

<―――地域包括ケア病棟を表す「ときどき入院、ほぼ在宅」という言葉があります。
住み慣れたご自宅や施設で過ごしながら必要に応じて入院し、治療や療養が終わるとご自宅に戻っていただく病棟ということですが、一般の方からするとイメージしにくい病棟だと考えています。具体的にどのような時に入院するのでしょうか?>

(小島)
 地域包括ケア病棟に入院される患者さんのケースは大きく分けて2つあります。
1つ目はポストアキュート。
急性期病院での治療が終わり、状態が安定してきたものの、在宅での生活に不安が残る患者さんが当院に転院され、引き続き治療やリハビリを行っていきます。

2つ目はサブアキュート。
これはご自宅や施設からの入院です。急性期病院に入院するほどでないものの、軽・中等症の急性疾患で一時的に状態が悪化してしまい、ご自宅や施設では対応できなくなってしまった患者さんを受け入れます。

この他にも、糖尿病の教育入院やリハビリ目的の入院、一時的に同居ご家族の負担を軽減するためのレスパイト入院などもこのサブアキュートに含まれます。

(知久)
これ以外に地域包括ケア病棟の機能として忘れていけないことが在宅復帰支援です。当院からご自宅や施設に戻られても生活が送れるように、入院時から在宅生活を見越したサポート、退院後に在宅サービスへのスムーズな移行、そして在宅生活を維持するための指導をしています。

地域包括ケア病棟の活用イメージ

様々な疾患の患者さんを受け入れる

<―――野木病院に入院される患者さんはどのような疾患をもつ患者さんが多いのですか?>

(小島)
 高齢者の身体機能の特徴から、起こしやすい症状があるんです。身体の水分量が少ないために、食欲が低下すると脱水症状が起こりやすくなります。心臓への負担がかかると心不全を来たすこともあります。また嚥下機能が弱いので誤嚥性肺炎、膀胱や尿道の尿量が減り膀胱炎や腎盂腎炎が生じます。そして筋力の衰えから転倒して骨折することも多くなります。こうした疾患は、急性期病院ではなく、当院のような地域包括ケア病棟で十分対応できる疾患となります。

<―――軽症であれば多様な疾患を診ることのできる「なんでも屋さん」のような病棟ですね>

(知久)
高齢になればなるほどマルチモビディティ(多疾患併存)といって複数の疾患が複合してきます。ひとつの病気だけでなく、患者さんをトータルで診て「木を見て森を見ず」にならないように気をつけています。

院内外との連携で退院支援に取り組む

<―――退院支援はどのようなことを行っているのでしょうか?>

(小島)
まず、看護師としては、糖尿病の患者さんで退院後の血糖チェック指導、食事指導が必要な方に対して、患者さんやご家族に説明を行っています。
病棟としては、患者さんの目標が何で、そこに向けてどのようなケアが必要なのかを入院時に「在宅復帰支援計画書」を作成し、多職種が参加する退院支援カンファレンス内で共有しています。カンファレンスは入院から2週間以内に1度、それ以降は定期的に行います。
そして、退院前には在宅サービスの担当者を交えた退院前カンファレンスを行うこともあります。在宅生活を送る上で必要な情報はケアマネジャーにつなげています。

また、今年度からなのですが、法人内の関連施設と月に1度、協力医療機関連携会議を行っていますので、法人全体で地域の方の在宅生活を支えていけたらと思っています。

(知久)
リハビリスタッフとしては、入院中は疾患の治癒や機能改善に向けたリハビリだけでなく、ご自宅や施設での生活をイメージして介入しています。退院後に生活を維持できるようにどのように動いていったら良いか、何に支援が必要なのかをご本人と共有し、ご家族やケアマネジャーにもお伝えしています。
退院時はご自宅まで付き添って、動作チェックする場合もありますし、必要であれば家屋調査をして身体状況に応じた環境調整を提案しています。また、訪問リハビリで在宅復帰後の生活もフォローをさせていただくこともあります。

地域に寄り添う病院であるために

<―――地域包括ケア病棟が地域にとってどのような存在であるべきだとお考えでしょうか?>

(小島)
急性期病院での治療を終えてもそのまま在宅に戻れるケースは少なくなっています。そのため当院でワンクッションをおくことで、急性期病院からは「患者さんを引き継いでくれて助かった」と言ってもらえるようになること、そして患者さんからも大学病院と変わらない看護技術が担保されて、「野木病院が地域にあって良かった」と思ってもらえるような寄り添う病棟、病院を目指していきたいと思います。

ご自宅や施設で長く生活を続けていくために

地域包括ケア病棟は、ポストアキュート・サブアキュート・在宅復帰支援の機能を併せ持ち、高齢化社会の中で、多疾患併存(マルチモビディティ)の方々にも広く対応できることから、幅広いニーズに応えることができる病棟です。生活のベースはあくまでもご自宅や地域であって、そこで長く生活を続けていくために、たとえ体調を崩されたとしても、当院に入院することで「ときどき入院、ほぼ在宅」を実現するための支援を行っていきたいと思います。

在宅生活でのお困りのことや地域包括ケア病棟へお聞きしたいことがありましたら、野木病院地域医療連携室までお問い合わせください。

(取材 友志会 鈴木 令和6年10月)

野木病院地域医療連携室

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