2025.04.23

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職員インタビューNo.2 認定ハンドセラピスト 清永健治

友志会グループには300名を超えるセラピストが在籍し、急性期から回復期、そして生活期まで様々なステージで活動しています。

その中で、石橋総合病院 作業療法士の清永健治さんが栃木県内第1号となる日本ハンドセラピィ学会 認定ハンドセラピストの資格を取得しました。今回は、清永さんへのインタビューを行い、資格を取るまでの経緯やハンドセラピィの魅力などお話を伺いました。

清永 健治

  • 認定作業療法士
  • 認定ハンドセラピスト

石橋総合病院 リハビリテーション部 所属。
2009年友志会入職。
回復期病院、介護老人保健施設、訪問看護ステーションなどで経験を積み、2013年より石橋総合病院で勤務。一般病棟、外来担当として、主に手に損傷や障害を負った人に対して、再び仕事や日常生活が行える手を再獲得するためのリハビリテーション(ハンドセラピィ)を行う。

※認定ハンドセラピストとは
ハンドセラピィ領域に携わり、10年間に及ぶ研修や課題、そして認定試験をクリアし、高度な専門知識と技術を有すると日本ハンドセラピィ学会が認めた者に与えられる資格

なぜ作業療法士の世界に入ろうと思ったのでしょうか?

野球をしていた高校2年の秋に骨折をしてしまい、近所の整形外科へリハビリに通っていました。進路を決めるタイミングだったので、作業療法の世界もいいかなと思い、栃木県内の作業療法士を目指せる大学に進学しました。そして実習でリハビリテーション花の舎病院(栃木県野木町)にお世話になっていたこともあり、友志会グループへと入職しました。

その後どのように今の石橋総合病院、そしてハンドセラピィの道へと進むのでしょうか?

友志会グループに入職すると、入職初年度はまず回復期病院で回復期リハビリを学びます。
2年目からはローテーションで各病期を学びながら、自分のやりたいリハビリ像を見つけていきます。私も回復期病院から介護老人保健施設、訪問看護ステーションでの訪問リハビリと経験を積む中で、野球をやっていた経験から、整形外科疾患に対するリハビリをやりたい!という思いが出てきました。そして面談で上司に相談してみたところ、石橋総合病院へと異動になりました。

異動する時には既にハンドセラピィがやりたいという思いはあったのでしょうか?

石橋に異動するまでハンドセラピィという世界があることを知りませんでした。
異動早々、高齢男性の指をリハビリしていた当時の上司から「作業療法だよね?やってみてよ」といきなり言われて、戸惑いながら20分間のリハビリをしたことを今でも良く覚えています。それが初めてのハンドセラピィでした。

ハンドセラピィの道へと進む決定的だった出来事は、2013年の「新潟手の外科研究所病院」への視察です。この視察で驚いたことが2つありました。
まず、ハンドセラピストが作成するスプリント(装具)の精巧さや種類の豊富さです。ハンドセラピィの分野ではスプリントは必須のツールであり、使用することで治療の幅が広くなっていくことを説明いただきました。当院へ戻るとすぐに上司に相談し、スプリントが作成できる環境を整備するに至りました。

スプリント療法とは…
手首の骨折や指の屈筋腱断裂の術後など、患部の安静保護が必要な患者さんに、手や指の形に合わせた型を作り患部の安静を図る。また、手指や手関節の可動域が固くなってしまった場合は応用して関節の可動域を拡げるスプリントを作成することもある。手外科とハンドセラピィでは切っても切り離せない療法。

2つ目がセラピストの知識と、手外科医とのやりとり(連携)です。セラピストが手外科医以上に手術の術式や解剖学について精通しており、カンファレンスでは当時の自分では理解できない専門用語で医師と会話をしていました。特に手部周囲の筋肉の名前や、手術の種類を英語の略字で会話されていることが衝撃的でした。それと同時に手外科医のセラピストに対する信頼が厚いことにも感銘を受けたことを覚えています。視察を通して、こんなセラピストになりたい!と憧れのような気持ちも抱いたことを覚えています。

私がハンドセラピィに携わるきっかけになったのはこの様な経緯があり、異動のタイミングや視察に行かせてもらえた環境などが重なりハンドセラピィの道へと進んだということになります。

当時は、石橋総合病院の手外科、そしてハンドセラピィの黎明期だったと思います。どのようにして手技を学び、そして資格を取るまでに至るのでしょうか?

当院では誰も教えてもらえない中で、試行錯誤が必要でした。手外科学会やハンドセラピィ学会に所属している方に話を聞いて周ることで知識が徐々に広がっていきましたし、安食孝士先生(石橋総合病院副院長 整形外科部長、日本手外科学会 指導医)が常勤になったことで、手外科の患者が増え、自然と自分の経験値もあがっていきました。素晴らしい医師がいなければ患者さんは絶対に集まってきません。先生方のご尽力が前提でリハビリが成り立っていると思います。その中で関わらせてもらっている自分は、本当に恵まれているなと思います。

石橋総合病院 安食孝士 医師

病院で臨床を行いながら、学会にも毎年参加はしていましたが、学会での発表は敬遠しているところもあったんです。
そんなある日、安食先生から「手根管症候群の患者さんのデータを数値化できる方法が記載されている論文を見つけたんだけど、リハビリに活用できないかな?」とお話をいただきました。

先生から頂いた論文を読んでみると、比較的シンプルな方法で数値化できそうでしたので、臨床以外に研究にも応用できるかもと思い、そこから学会発表、論文執筆へと進んでいくことになります。
2019年に北海道で行われた第31回日本ハンドセラピィ学会学術集会で発表をするきっかけがあり、何を思ったのかそれを論文化するチャレンジをしてみることにしたんです。その時は論文作成にあたり多くの先生方にアドバイス頂きながら、苦労を重ね何とか論文が完成し、日本ハンドセラピィ学術誌に掲載が決まりました。そのあたりから本格的に「もしかしたら自分も認定ハンドセラピストになれるんじゃないか」と思うようになりました。

2019年 日本作業療法学会発表 
2025年 日本手外科学会 / 日本ハンドセラピィ学会

どのような論文を出されたのでしょうか?

日本ハンドセラピイ学会に2編と日本手外科学会に3編論文を出しました。そのうち4編は手根管症候群という手のしびれや感覚障害の疾患についてです。手根管症候群の患者さんに対しての検査を点数化して見えるようにするために、他論文を参考にしながら様々な臨床症状との関連や、術後経過を当院の手外科医師と一緒に研究させていただきました。
感覚障害としびれなどの症状との関連性や、術前の状態がこれくらいだと、術後1年でこれくらいまで良くなるという参考数値などを導き出す研究に関する論文を執筆しています。
最近はスプリントを使った治療法のデータをまとめ、手外科学会で発表し論文化させていただきました。

  1. 清永健治,上條隆裕,萩原秀,安食孝士.手根管症候群患者におけるSWTと痺れの経時的変化と関連について.日本ハンドセラピィ学会誌,12(3),128-132,2020.
  2. 清永健治,堀井倫子,萩原秀,安食孝士.手根管症候群術後の重症度別におけるSWT回復過程について.日本手外科学会誌,37巻3号,254-275,2021.
  3. 清永健治,海老原祐樹,堀井倫子,萩原秀,安食孝士.内視鏡下手根管開放術後における術後早期の神経障害性疼痛の改善に与える因子の検討.日本手外科学会誌,39巻3号,336-339,2022.
  4. 清永健治,海老原祐樹,堀井倫子,萩原秀,安食孝士.SWTスコアを用いた手根管症候群の術後6か月における知覚予測. 日本ハンドセラピィ学会誌,16巻3号,118-121,2023.
  5. 清永健治,海老原祐樹,堀井倫子,萩原秀,安食孝士.当院におけるZone5手指伸筋腱断裂に対するICAM法(制限下早期自動運動)を用いたハンドセラピィについて. 日本手外科学会誌,41巻3号,192-196,2024.

石橋総合病院の手外科疾患の患者さんはどのような方が多いのでしょうか?

1つ目は骨折や腱損傷などの外傷、
2つ目はばね指や腱鞘炎などの筋肉や腱の障害、
3つ目が手根管症候群や肘部管症候群などの神経系の障害、この3つが多い疾患です。
軽症から、切断寸前や複数骨折などの重症の方までリハビリを行い、社会復帰や生活復帰に向けた介入をさせていただいています。

資格を取得してどんな心境の変化がありましたか?

一番は臨床に対する自信が深まったことです。自分の仕事に対して納得したいと思っていましたし、資格を取れたことは、今後ハンドセラピィの仕事を続ける転機になったと感じています。
まだ取得して日も浅いですが、資格が取得できたことで周囲の見方も変わってくると思います。
ホームページやSNSなどでも資格をもつ職員が在籍していることを発信し、石橋総合病院の手外科は医師による手術だけでなく、術後のリハビリも質の高いものを提供していると広めることができたらと思っています。

手外科、ハンドセラピィの魅力はどんなところでしょうか?

人の手は人間が進化してきた過程そのものだと思います。
それがケガや病気などで手に障害を負うと、生活の細かなところに不自由さが出てきます。それを分析して疾患の状態と照らし合わせながらリハビリを提供し、仕事や日常生活に復帰する過程を見ることができることは非常に魅力的で奥深いと感じています。
自分が思った以上に回復する人もたくさんいますし、そのような症例を見ていると、まだまだ人の手は進化していくのかなと思ったりします。
そういったことを感じながらこれからも手外科、そしてハンドセラピィに関わり続けていきたいです。
また資格取得に合わせ当院を認定ハンドセラピスト取得に必要な臨床研修施設に登録させていただきました。今後は、様々な形でこれまでお世話になった方々への恩返しの気持ちをもって精進していこうと思います。

<取材:R7.4>

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